映画の感想:第7回『千年女優』

2010年、46歳という若さでこの世を去ってしまった今敏監督。

今回は今監督作品の中で私が一番好きな『千年女優』の感想を書いていきたいと思います。

 

何度観ても心かき乱される作品です。

本作がもっともっと多くの人に届くことをいつも願っています。

金曜ロードショーとかでやって欲しいです。

 

好き度:10

推奨度:10

 

〇好き度

文句なしに満点です。

最初に存在を知ったのは2002年の春ごろだったでしょうか。

テレビのCMで流れてたんですね。「今度上映しますよ」ってやつが。

その時のCMを完璧には覚えてはいませんが、最初に「一目あの人に逢いたいんです!」

と主人公が声を上げるシーンだったのは覚えています。

が、そのCMは円盤の特典に収録されているCMとは違う様です。

アレが幻や記憶違いだとは私には思えません。あのCMもう一度観たいなぁ。

で、結局本編を観たのは2005年にBSで放送されたのが最初のはずです。

はず、というのは記憶が少し曖昧な為です。年代は割と覚えるタチなので間違いないとは思うのですが…

「劇場へは行かなかったの?」と問われそうですが、弁明させてください。

今でこそアニメ映画も田舎で放映してくれていますが、

当時は都会に出ないと放映自体がないというのが常でした。

つまり、行かなかったのではなく、放映が無かったのです。

なのでBSで放送があると知った時は喜んだものです。そういう事なのです。

 

 

〇推奨度

内容としては引退した往年の大女優藤原千代子に

映像制作会社の社長立花源也なる人物がインタビューを申し込む、という話。

勿論ただインタビューをするのではありません。それじゃ映画になりませんし。

千代子の回想・出演した映画の物語・現代が絡み合いストーリーは進みます。

千代子の実際の思い出と映画の境界がわざと曖昧にされたり、

立花社長が物語に積極的に介入する等するので初見時は

今どのパートを観ているのか、と混乱する事必至です。

ですが、初見なんてストーリー追うのが精一杯なんてどの映画でもよくある話で。

映像は止めずに、深く考えずに、とにかく最後まで突っ走りましょう。

 

 

さて、ここからネタバレです。未見の方はまず本編をご覧になってください。

何卒お願い申し上げます。

 

 

 

 

 

〇ネタバレ

内容に触れていきます。

 

千代子はとても一途な女性です。まずそこは大前提として申し上げておきたい。

「そうかな?」と思った方、よく考えてみてくださいな。

彼女は少女時代から最期まで鍵の君を追い続けてたんですよ?

一途にも程があります。

「え、でも大滝と結婚したじゃん」

待って下さい!あの時千代子はいくつでしたか??

恐らく当時の基準からしたら大分結婚に行くには遅まきの年齢じゃなかったでしょうか。

それも彼女はその時大事に持っていた鍵を失くしてしまい失意の中にいます。

それまで一途に鍵の君を思い続けてたんです。現実じゃありませんよそんな事。

現実じゃ精々十代の内ですよ、想い人を想い続けるのなんて。

 

その後鍵は大滝が拾って隠していた事を知り離婚、そして追う事を再開したものの、

自分の変化を直視してしまい失意に暮れ失踪という形で女優を引退…

これが一途じゃないならなんですか!!!

 

そして賛否両論の千代子の最後の台詞。

これ正直私も「それはいらなかったんじゃないかな~」と思った派でした。

が、しかし、「いやこの台詞には何か意味があるはず。監督が無意味に入れるはずがない。

むしろ逆にこの台詞がないと物語全体が何か薄くなってしまう気がする」と思い、

その答えをネット等で探していました。

しかし納得のいくものは得られず、今日までずっと腑に落ちないままでした。

今日唐突に『千年女優』の感想を書いているのは単に気が向いたからじゃありません。

そうです、私は長年探し続けていた答えを得ることが出来たのです。

 

今朝ふと頭に浮かんだんです。「もしかしてそういうこと?」と。

 

あれは彼女が自身の生涯を肯定した言葉なんだと、はっきりと認識しました。

 

 彼女は女優を引退する少しまえから現在までずっと失意の中にいました。

約束を果たせなかった、あれだけ焦がれた人の顔も思い出せなくなった、

老いてしまった、鍵すら失くしてしまった・・・

 

そんな暗闇の中にいた彼女の元に立花社長が訪れた訳です。

彼とのインタビューを通して当時の熱を取り戻していく千代子。

証拠に現代のインタビュー風景でも彼女は熱心に当時の役の再現をしていました。

そして立花社長から渡される失くしたはずの鍵。

きっと彼女の心の中に数えきれない色々なものが戻ってきたはずです。

 

そしてインタビューの直後に彼女は旅立ってしまいます。

しかし彼女は独り寂しく失意に暮れながら逝くのではありません。

1人の女としての、そして女優としての自分を称えながら逝くのです。

 

この映画は最高です。