映画の感想:第9回 『ワンスアポンアタイムインハリウッド』
第9回目は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』です。
本作はタランティーノ作品の9個目の作品ですが、9回目でこれを扱うのは全くの偶然です。
色々あって劇場では観れていない本作ですが、先日GEOが100円セールをした時に借りて観ました。
劇場で観なかった事を悔やみはしませんが限定版のスチブ版を買えなかった事は残念に思ってます。
で、画像の通り本作はUHDを購入しております。初見は1週間前にも関わらず。
つまりどういう事かというと、本作は最高だった!!!!!ということです。
好き度:10(限界突破)
推奨度:8
〇好き度
限界突破しました。正直生涯ベスト10に入るかもしれない作品でした。
それ位素晴らしい作品でしたね。
タランティーノ作品は半分位は観てますが、長い尺と長い会話劇でちょっとクドいイメージもあったのですが、本作は会話劇もあるのですがそこまでクドくはありません。
1969年のハリウッドを爽やかに描いています。登場人物も実に爽やかです。
主人公の二人、リックとクリフ、そしてヒロインのシャロン。
3人共とても好感の持てるキャラクターになっています。
詳しく語るとネタバレになるのでそれは別の項目で。
とにかく監督のハリウッドやそれを含めた映画への愛に満ちた本作。
「長編は10本撮ったら引退する」と語っている彼ですがこれが10本目だった場合締めとして最高だったと思いますね。
〇推奨度
しかし!ここはやはりタランティーノ作品!
尺が!尺が長い!!!無駄なシーンがある訳ではないのでアレですが、
長い尺はそれだけで万人受け感を損なってしまいます。それ故に8点です。
あと全体的に大人しい作品なのでそういう意味でも人を選ぶかな、と。
まあ見せ場とかは沢山あるんですけどね。飽くまでここは万人受けとしての評価です。
〇ネタバレ
さて、ネタバレです。
まず私はシャロンテート殺害事件の事を知りませんでした。
ただTwitterで本作のスチブの事とか調べてる時に「シャロンテート殺害事件云々」という文言があったので不穏な空気は感じ取ってはいましたが。
本筋としては「リックとクリフが復活してどーん!」みたいな痛快娯楽作だと思ってましたから。
(あらすじすら知らずに観だしたのが最初)
メンタルが弱っててくよくよしているリックと、飄々としてるクリフ、
そしてポランスキー監督の奥さんであるシャロンが時々入って来るといった感じで物語はさらさらっと流れます。
そして終盤武装したヒッピー達がリックの家の前(=シャロンの家の前)にやってくる訳ですが、
「もしかしてリックが殺される?それとも恨みを買ってるであろうクリフが?」とそっちの方で心配になりました。
しかしそれも杞憂でしたね。LSDでキマってる状態のクリフにボコボコにされる3人。
余りのやられっぷりに思わず声を上げて笑ってしまった程です。
不謹慎ギャグの極みといった所でしょうか。良いですね。
ちょっとやられ方がエグいので若干引いてしまった感もありますがクリフ無双は最高でした。
もっと細かく、キャラクターへの感想を交えつつ語っていきましょう。
まず主役のリック・ダルトン。
テレビスターだったものの時代の流れに取り残されて最早詰み状態の彼。
アルコールに溺れて免停は食らうわセリフは素人みたいに飛ばすわ散々です。
挙句「兄弟以上夫婦未満」で親友で相棒で部下であるクリフに泣きつく始末。
愛すべきダメ男ですね。結構喧嘩っ早いのか暴言も結構吐きます。
でも共演者であるトルーディや相棒のクリフ、そして周りの人への対応を見るに普通に善人ですね。
そんな彼の劇中での白眉シーンはやはり『対決ランサー牧場』の撮影シーンでしょう。
少女を人質に取り不敵に笑い悪役を演じ切るリック。
カットの呼び声の後監督とトルーディに演技を絶賛され目に涙を滲ませて喜ぶ彼の姿には見ていて涙を誘われました。
「良かったねぇ」と心の底から思った瞬間です。
勿論その前の台詞を飛ばして一人でトレーラーの中で暴れまくり、
「ちょっと一口だけ」とお酒を口にし更に激昂するシーンも最高でしたが。
あそこアドリブってマジですかね。どちらにせよ素晴らしいシーンです。
そして個人的にお気に入りなのがリックの専属スタント兼世話係兼相棒兼親友のクリフ・ブース!
リックとは違い感情が荒ぶる事はないのですが、飄々として掴み所のない人物です。
それに妻殺しの噂や普段の行動から現場では浮きがちで仕事はリック以上に減少中。
豪邸に住み高級車を乗り回す(免停中)リックとは違い、
トレーラーハウス・塗装も剥げ剥げなオンボロ車に乗るクリフ。
しかし彼のメンタルは鋼です。戦争からの帰還兵という事もあってか非常に強い、精神も肉体も。
ブルース・リーと揉めて折角ありついたスタントの仕事も取り上げられてしまった後も「まあしょうがないか」で済ませるレベル。
これがリックだったら即帰宅からのクリフをお供に号泣自棄酒不可避ですよ。
ビジュアルからキャラ付けから何から全て私のツボを突くクリフ。最高です。
仕事を干されようがリックから暇を与えらえようが(薬がキマってるとはいえ)銃を突き付けられようがヘラヘラとしていられる、ある意味目指すべき理想像ですよ。
まあ流石にリックから決別を言い渡された時は動揺を見せてはいましたが。
しかし逆にリックはクリフと離れて大丈夫ですかね。
奥さんを娶ったとはいえ精神的に多分自分が思ってる以上にクリフに頼ってたと思うんですよ。
恐らくですが仮にあの後二人は本当にバラバラになってしまってたとしても1週間位でリックがクリフに電話して「悩みを聞いてくれ」とか言ってそうなんですよね。
あ、クリフがリック宅のアンテナ修理をするシーンで、彼が倉庫から出ていく時にあの火炎放射器が置いてあるのが分かるんですけど気付きました?私は偶然気付きました。
スタントに頼らずリック自身で火炎放射器を使ったというシーンが挟まれてましたけど、
このシーンと合わせて最後の大暴れの布石を丁寧に置いてたんだなぁと感心しましたよ。
さて、最後はヒロインのシャロンです。
ヒロインといってもポランスキーの奥さんですし別にロマンスはありません。
彼女の場合はひたすら無邪気に可愛らしく振舞う様がこれでもかと描かれます。
自身が出演している映画の観客の反応に素直に喜ぶ姿なんて良いですね。
あとヒッピーの子をヒッチハイクさせてあげる等裏表のない素直な人物としてシャロンは描かれます。
それが史実では凄惨な最期を迎える訳ですが、それを知っている人は終盤の夜に差し掛かるハリウッドの街並みのシーンで「おや?」と思ったのではないでしょうか。
なんかあそこ妙に明るいというか、希望がたっぷりって感じのシーンでしたよね?
私あのシーン大好きです。とても希望に満ちたシーンだと思います。
さて、いよいよ運命の夜を迎えた訳ですが、ヒッピー達は史実とは違いリックと揉めた後に彼の自宅へ侵入します。実在の人物として存在しないリックとクリフ、二人はこの時の為にいたのです。
従軍経験があって喧嘩の強いクリフがまず彼らをボコボコにします。
愛犬のブランディもこれでもかと悪人をぶちのめします。
まさに気分爽快!
最後はリックが火炎放射器でヒッピーの一人をカリカリのジャーマンポテトに仕上げてフィニッシュ!
最高にスカッとするシーンでしたね!
クリフは脚を刺されて救急車で運ばれていきます。
ここを「前へ進む為の脚をさされた=時代に取り残される」と解釈している人がいました。
私もそう思います。が、しかし敢えてそこから前向きに考えます!
まず直後リックがシャロン達に誘われて彼らと面識を持ちます。
恐らくリックは役者として返り咲けるのでしょう。
そうすると収入が安定しますから再びクリフを雇えるのです。
それにスタントもクリフに回すでしょうし。
「あんなに深く刺されたら脚が駄目になる」とかあるかもですがそこは映画なので許して欲しいです!
今後彼らがどういう人生を歩むのかは語られる事はありませんが、
私は希望に満ちたものであって欲しいと願っています。
「せめて映画の中だけでも」とシャロンを悲劇の運命から救い出してくれたタランティーノ監督です。期待しても悪い話ではないでしょう。
とにかく本作は最高でした。
あ、円盤の仕様も素敵でしたね。
ブラピの吹替が堀内さんでしたし、音声が吹替もロスレス!
原語版でも観るのは当然ですが内容をしっかり把握するのは吹替の方が適してますしね。
観て良かった、買って良かった、そんな作品でした。